事例11 森林の樹種を分類したい

背景:気候変動の影響を把握するために

パリ協定で定められた気候変動対策の経過報告の一つに、森林による二酸化炭素(CO2)吸収量の推定があります。推定には炭素蓄積量の把握が求められます。しかし、樹種ごとにCO2 の吸収量やバイオマスが異なるため、精度の高い樹種分類が必要です。

これまでもマルチスペクトルデータを使った樹種分類技術の研究は進められてきましたが、樹種を細かく分類する精密樹種分類は難しいのが現状です。その原因として、樹木は種類に関わらずスペクトルが非常に類似していることや、落葉樹以外の樹木では、季節によるスペクトルの変化がわずかしかないことが挙げられます。

気候変動対策に貢献するためにも、これらの課題解決および樹種分類技術の向上が求められています。

Fig11-00
日本 東京都 八王子市

現在の研究実績

対象地では、樹木園、試験林、サクラ保存林に区分された0.56 km2 の森林が管理されています。暖温帯常緑広葉樹、冷温帯落葉広葉樹、亜寒帯針葉樹という豊富な樹種が1km2 に満たない範囲に分布しており、精密樹種分類の検討に適した地域です。

本事例では、まずハイパースペクトルデータをもとに樹種ごとの樹冠のスペクトルライブラリ[1]を作成しました。ライブラリには、ハイパースペクトルデータの連続性を活かして、正規化連続体除去処理[2]をしたデータを登録しました。このライブラリを教師データとして、ピクセルごとに各樹種との類似度を求めます。その中で最も類似度が高かったスペクトルをそのピクセルの樹種としました。さらに、樹冠の枠をつくり、その中で多数を占める樹種を、その樹冠の樹種とする多数決処理を行いました。これにより、樹冠にできた影の影響を抑え、樹冠全体を正しく分類することができました。

これらの結果、12 種の樹種の分類に成功し、マルチスペクトルセンサよりも細かく樹種レベル、群落レベルを分類できました。

今後は、分類精度向上のために、今回の観測データに含まれていない短波長赤外域(1,100~2,500nm) のデータを使った解析手法の開発が期待されます。

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正規化連続体除去処理した教師スペクトルと対象地域の樹冠状況

期待される活用方法

森林管理・モニタリング情報の提供

日本国内の気候変動対策として、2013 年から「J-クレジット制度[3]」が導入されました。これは森林を管理することでクレジット[4]を獲得できる制度で、国によって進められています。クレジットを獲得するためには、樹種や樹高の調査をして、森林を管理していることを示す必要があります。この調査をより効率的に進めるために、ハイパースペクトルデータを用いた樹種分類の実施が期待されています。


[1] 対象物のスペクトル情報を蓄積したデータベース。

[2] スペクトルの特徴を強調し、より比較しやすくするための処理。

[3] 参照 http://japancredit.go.jp/index.html

[4] 実現されたCO2 排出削減量もしくはCO2 吸収量を、あらかじめ決められた方法論に従って定量的に評価し、定められた委員会等から認証を得て、経済的なやり取りが可能となったもの。