事例10 泥炭湿地林の森林劣化箇所を知りたい

背景:泥炭湿地林から発生する二酸化炭素(CO2) 量削減への貢献のために

 泥炭とは、枯れた植物が分解されず、数千年にわたって堆積することによって形成された有機質土壌のことです。 この有機質土壌は、植物のバイオマス[1]を大量に蓄えています。そのため、環境の変化 によって燃えたり分解されたりすると、炭素が二酸化炭素(CO2)となって大気中に放出されます。 この泥炭の上に構成された森林が泥炭湿地林です。 泥炭湿地林が減少したり劣化[2]したりすると、樹木と土壌の両方からCO2 が排出されます。 インドネシアでは、2015 年に泥炭湿地林で大規模な火災が発生し、9 月から10 月の2 ヶ月間のCO2 排出量は、 米国の年間排出量を上回りました(WRI[3],2015)。CO2 は、地球温暖化の原因物質です。 そのため、泥炭湿地林が排出する大量のCO2を抑制することは、地球温暖化を防止する上で重要な取り組みといえます。 この取り組みの一環として、現在の泥炭湿地林のバイオマスや生育状況などの把握が必要とされています。

Fig08-01

Fig08-00
インドネシア 中央カリマンタン州
パランカラヤ周辺

現在の研究実績

 中央カリマンタン州の泥炭湿地林における森林減少及び劣化の主要な原因は、森林火災です。 現地調査の結果、森林のタイプは、火災等による森林劣化が生じていない一次林と、火災後の 遷移過程の森林である二次林に区分できることがわかりました。一次林と二次林ではバイオマスが 大きく異なります。本事例では、ハイパースペクトルデータと、林冠の凹凸に起因するテクスチャデータを もとに、LASSO 回帰分析を使ってバイオマス推定マップを作成しました。その結果、現地調査結果と推定 マップは90%以上一致しました。この推定マップに閾値(180t/ha)を設定し、閾値よりもバイオマスが 多い箇所を一次林、少ない箇所を二次林として、現地の状況とおおよそ対応した一次林/ 二次林分類マップを 作成しました。これらのマップを使うことで、森林の劣化が起こっている箇所がわかり、泥炭湿地林の バイオマスを効率的に評価できます。今後は、ハイパースペクトルデータを使った地下部の泥炭量の評価や 地下水位モニタリングへの適用を目指します。

Fig10-02
バイオマス推定マップ

一次/二次林分類マップ

Fig10-03
森林タイプの考え方

Fig04-04
場所ごとに異なる森林の反射率

期待される活用方法

REDD+[4]や二国間クレジット制度[5]に関連したプロジェクトへの活用
 世界では、REDD+や二国間クレジット制度など、CO2排出量を削減することによって、 経済的な利益を得ることが可能な取り組みが進められています。
 インドネシアでは、泥炭地の保全・修復によって減らせるCO2排出量が5.66億tCO2/年に なると予想されています。クレジット価格[6]を5$/tCO2と仮定すると、28.3億$/年に 相当する市場が生まれます。この市場を開拓するためには、CO2排出量の計算に欠かせない、 泥炭湿地林のバイオマスの評価が必要です。より正確にバイオマスを評価するためにハイパー スペクトルデータの利用が期待されています。


[1] 生物量。存在する動植物を有機物として換算した量のこと。主に酸素、炭素、窒素、水素を含む。

[2] 森林の減少とは火災や伐採により面積が減少することを意味する。劣化とは、森林内の樹木の密度が疎になることや、種数が減少することを言う。

[3] World Resources Institute の略。

[4] Reducing emission from Deforestation and Forest degradation and Plus の略。途上国における森林減少・劣化の抑制や持続可能な森林経営などによって温室効果ガス排出量を削減あるいは吸収量を増大させる努力にインセンティブを与える気候変動対策のこと。

[5] 途上国での対策実施を通じ、実現した温室効果ガスの排出削減・吸収への各国の貢献を定量的に評価し、各国の削減目標の達成に活用する制度のこと。

[6] 実現されたCO2排出削減量もしくはCO2吸収量を、あらかじめ決められた方法論に従って定量的に評価し、定められた委員会等から認証を得て、経済的なやり取りが可能となったもの。