事例8 牧草の生産性を評価したい

背景:飼料の自給率向上・安定供給のために

 日本の純国内産飼料自給率は26%(農林水産省、2013)であり、供給される飼料の多くは海外から輸入しています。 しかし、近年の世界の飼料穀物をとりまく状況をみると、人口増加に伴う穀物需要の拡大、地球温暖化や異常気象による 不作など、飼料の安定供給を脅かす要因が複数あります。これらの要因の解決に向けて、飼料の国内自給率向上のための 取り組みが必要です。自給飼料は輸入飼料と比較してコスト面で優位にありますが、畜産経営上の利便性、労力面での 負担等の要因により、輸入飼料に依存する傾向があります。飼料の自給率向上のためには、収穫時期や施肥の管理といった 圃場作業の効率化を進め、これらの課題を解決していくことが望まれます。

Fig08-00
北海道 江別市

現在の研究実績

 一番草[1]を対象として、ハイパースペクトルデータから草種分類図(左図)と乾物収量分布図 (中図)を作成しました。草種はSAM 法[2]による回帰モデルを使って分類し、乾物収量は RVI[3]を利用した単回帰モデルを使って算出しました。この単回帰モデルに使った波長を選択 するために、RVI と現地調査結果との決定係数(R2)の値に応じて色分けして作成したものがR2コンターマップです。 現地調査による検証の結果、草種の分類精度は約70%(牧草タイプ[4]ごとで80% 弱程度)、 収量の推定精度は92g/m2(RMSE[5])でした。
 また、草地の生産性を示す重要な品質情報のひとつにTDN 収量[6]があります。 TDN 収量の分布図は、草種分類図と乾物収量分布図を使って、既往の研究事例や成分表から生育段階および草種毎の 標準的なTDN 含有率を参照することで作成できます。この分布図からTDN 収量の低い草地が判断できるので、生産性回復 のための草地更新が効率的に行えます。

Fig08-01
草種分類図
Fig08-02
乾物収量分布図
Fig08-03

Fig08-04
乾物収量のR2コンターマップ
Fig08-05
草種ごとの正規化反射率

期待される活用方法

草地更新の判断
 牧草地の生産性向上と自給飼料の増産のためには、高収量・高品質の牧草生産と計画的かつ適切な草地更新が 重要です。そこで、ハイパースペクトルデータから得られた草種分類図や乾物収量分布図などを使った以下の ような活用が期待されます。
   ◆栄養価の異なる牧草[7]の分類や牧草と雑草の区別による牧草地の生産性評価
   ◆雑草が増えてきている草地や荒廃草地の更新時期の判断
   ◆土壌診断の際に重点箇所を選定し、圃場調査を省力化
   ◆土壌診断結果の解釈の支援
 今後は、生育している草種や気象が異なる地域や、さらには海外への展開も進めていき、 適用地域を拡大していくことで、各地の牧草管理への貢献が見込まれます。

家畜への給飼量の判断
 草種分類図を活用することで、草地の草種構成から圃場の牧草の栄養価がわかり、 家畜への給飼量の判断を助けることができます。


[1] その年の最初に刈り取る牧草を指し、例年6月後半から刈り取る。その後に収穫される二番草・三番草に比べ、収量が高く品質も良い。

[2] Spectral Angle Mapper法。対象とするスペクトルと教師とする領域のスペクトルの類似度をマッピングする手法。比演算の考え方を多次元に拡張させたもの。

[3] Ratio Vegetation Index:比植生指数。植生の状態を表す指標に使われる演算式。近赤外/ 赤外で表される。

[4] 株型、地下茎型、広葉草本に分けられる。

[5] Root Mean Squared Error:平均二乗誤差の平方根

[6] Total Digestible Nutrients(可消化養分総量)は、飼料中の栄養分のうち家畜に消化される栄養分の総量のことで、飼料価値を評価する上で重要な指標として知られている。

[7] 牧草の種類によって栄養成分が異なる。例えば、タンパク質はマメ科牧草に多く、イネ科には少ない傾向がある。