事例7 茶葉を計画的に摘採したい

背景:品質を保ちながらより多くの収量を確保するために

茶は、海外でのニーズが依然として拡大傾向にあることから、輸出用作物として期待されています。海外への輸出量を増やし収益性をさらに向上させるためには、品質を保ちながら、より多くの収量を確保することが理想です。

茶の品質は、茶葉に含まれる窒素の量で決まります。窒素は若い茶葉に多く含まれるため、早く摘むことで品質の高い茶になります。しかし、早すぎる時期に摘んでしまうと、茶葉が小さいので、収量は少なくなってしまいます。そのため、生産現場では品質と収量を両立できるように、摘採時期を計画的に管理する必要があります。

しかし、摘採に利用されている情報は、摘採量のみです。摘採時期や摘採すべき圃場の場所などの情報は使われていません。これらの情報に基づいた包括的な管理を実施し、品質を安定させ、より多くの収量を確保するために、量だけでなく摘採時期や摘採すべき圃場の位置などの情報提供が望まれます。

Fig07-00
日本 静岡県 菊川市

現在の研究実績

本事例では、品質を保ちながら収量を安定させるために、圃場の場所ごとに摘みとるのに適した時期までの日数を予測する摘採適期モデルを構築しました。

茶葉は、成長すると葉の中の窒素量が変化し、それに伴いクロロフィルの量も変化します。既往の研究からクロロフィルが増加すると、レッドエッジ[1]の位置が長波長側に移動することがわかっています。そのためレッドエッジの波長を指標とすることで、茶葉の生育段階を把握できます。

葉の窒素含有率(2008 年、二番番茶) 成長が進むにつれて窒素含有率が低下する
Fig07-01

モデルの構築には、地上携帯型ハイパースペクトルセンサFieldSpec と、航空機搭載型ハイパースペクトルセンサCASI-3 で取得したデータを使いました。はじめに、ノイズを除去したFieldSpec のデータを使って、マルチスペクトルデータでも行われるNDVI を使った単回帰や、ハイパースペクトルデータの多波長、高波長分解能、波長連続性という特徴を活かしたPLS 回帰や一次微分を用いた重回帰などの手法で摘採適期モデルを検討しました。その結果、PLS 回帰を用いたモデルが、摘採日までの日数を最も精度良く予測しました。予測誤差は3 日以内です。

次に、CASI-3 のデータに、FieldSpec のデータを用いて構築した摘採適期モデルを適用し、摘採適期予測図を作成しました。作成された予測図は、対象地域の生育が早い南北の圃場と、生育が遅い中央部の圃場との違いがよく現れており、回帰式の決定係数は0.57という有意な値でした。検証の結果、この予測図の誤差は2~6 日程度でした。

Fig07-02
対象地の茶畑の様子

Fig07-03
FieldSpecで観測した調査プロット18箇所のノイズ除去後の茶樹分光反射スペクトル
Fig07-04
PLS回帰モデルによる摘採適期予測図

期待される活用方法

品質を保ちながらより多くの収量を確保するためには、茶葉の生育段階に着目して、摘採期を判断する必要があります。本研究で構築した摘採適期モデルを使うことで、茶の生育状況を考慮して、摘採する圃場の順番を事前に決定できるように、より合理的な摘採計画の立案に役立つことが期待されます。


[1] 植物における、680nm~750nmにかけての反射率が急激に変化するスペクトルのこと。