事例3 海域にある石油探鉱候補地を探したい

背景:海域における石油探鉱の候補地を抽出するために

衛星画像データ、特に合成開口レーダによるオイルスリック ・マッピング[1]は、海域における石油探鉱の一手段として定着しつつあります。しかし、実利用が進むにつれて、探鉱現場からはオイルスリックの分布や位置だけではなく、自然滲出[2]油とそれ以外のスリックの区別や滲出点の特定について、より精度の高い情報提供が強く要請されています。

一方で、石油資源の探鉱開発では環境への配慮が重要視されており、掘削リグや船舶からの廃油などによる環境汚染への対策が必要となります。海に広がる油膜の把握を海岸や船舶などから行うことは容易ではありません。海洋汚染対策の手段としてもオイルスリックのモニタリング技術の開発が望まれます。

Fig03-00
米国 カリフォルニア州 サンタバーバラ沖

現在の研究実績

既存の研究から、油膜の連続スペクトルは可視から短波長域において変化することが知られています。そこで本事例では、ハイパースペクトルデータから得られる油膜のスペクトル特徴を使ったオイルスリック・マッピング手法を検討しました。

対象地であるサンタバーバラ沖では自然滲出油によるオイルスリックの存在が知られており、航空機ハイパースペクトルセンサAVIRIS による観測が複数回行われています。本事例では、この観測データを使用しました。

マッピングでは、まず、AVIRIS データのカラー合成画像を目視で判読して、オイルスリックと通常の海表面の領域を抽出しました。抽出した両者の輝度値を比較すると、オイルスリックは通常海面よりも高い輝度値を示しました。また、オイルスリックの輝度値パターンを見ると、滲出点近くでは放射輝度が相対的に小さく、その後、急激に放射輝度が増大し、さらに滲出点から離れるにつれて450nm ~ 560nm(青~緑の波長帯)の放射輝度が漸減することがわかりました。このようなスペクトルパターンの確認は、ハイパースペクトルだからできることといえます。

Fig03-01
オイルスリックにおける輝度値パターンの変化。滲出点の近傍では放射輝度は相対的に小さく(a1-a6),その後,急激に放射輝度が増大し(a7-a10),さらに滲出点から離れるにつれて,青~緑(450nm-560nm) の放射輝度が漸減する(a11-a15)。

この滲出点からの距離とオイルスリックのスペクトルパターンの関連性に着目して、オイルスリックの中で可視域の輝度値が最大となる範囲(450nm ~ 560nm 付近)を教師としたSAM[3]法 を用いて、スペクトル角[4]の変化を算出しました。SAM 法のスペクトル角は、滲出点付近では比較的大きな値となりますが、滲出点から離れると急激に小さな値となり、その後、スペクトル角は徐々に大きくなることが分かりました。このパターンに着目すると、オイルスリックの両端についてスペクトル角を調べ、急激に小さくなる方が滲出点であると推定できます。

Fig03-02
1997/4/10 のAVIRIS データにおけるスペクトル角画像
Fig03-03
1997/4/10 のAVIRIS データにおけるスペクトル角と滲出点からの距離の関係。縦軸は小領域ごとのスペクトル角の平均値、横軸は滲出点からの相対的な距離(小領域の番号)を示す。滲出点付近では比較的大きな値であるが,滲出点から離れると急激に小さな値となり,その後,スペクトル角は徐々に大きくなる。

期待される活用方法

衛星画像データを用いるオイルスリック・マッピングでは、主に合成開口レーダのデータを利用して解析します。しかし、海域によっては利用可能なデータが限られることや、判読されたオイルスリックの再現性が得られないことがあります。このような場合に、ハイパースペクトルデータから得られるオイルスリックのスペクトル構造の情報は、海域の石油探鉱において貴重な情報となり得ます。例えば、この情報を活用することで、日本資本の石油開発会社が、アフリカ沖やインド洋等のフロンティア海域で欧米のメジャーに先駆けて新規海底油田を発見することが期待されます。


[1] 海面に広がる厚さ数mm 以下の油膜。海面を漂流する油膜の表面は鏡面状となり、周辺海面とは異なる反射特性を示す。海底油田からの湧出や、タンカーなどからの人為的な油放棄等がオイルスリックの原因となる。

[2] 液体が外ににじみ出ること。

[3] スペクトルの形状をベクトルに変換し、ベクトルの角度を指標としてハイパースペクトル画像を分類する手法。

[4] スペクトルの形状からベクトルを算出し、それらのベクトルのなす角をスペクトル角という。