事例1 特定の鉱物のある場所を抽出したい

背景:鉱物資源の安定供給のために

鉱物資源探査を行う上で、現地での地表踏査は不可欠な作業の一つです。その目的は、岩石・鉱物の情報を収集し、地質・変質帯[1]などの状況を正確に把握することです。地表踏査を効率的に行うためには、調査対象となる鉱床の有望地を抽出する必要があります。そのため、広範囲の地表面物性を把握できる衛星データが有望地の抽出に使われています。実際に、短波長赤外域のバンドが多いマルチスペクトルセンサ(ASTER など)のデータを解析して、セリサイトやカオリナイト等の変質鉱物が抽出されています。踏査の効率化や鉱区取得を目的とした衛星データの利用が進んでいますが、より多くの種類の鉱物が抽出できる手法が望まれます。

Fig01-00
メキシコ合衆国 ゲレーロ州

現在の研究実績

本事例では、スペクトルの情報から鉱物を特定する携帯型変質鉱物簡易同定装置(POSAM[2])のアルゴリズムを改良し、鉱物を抽出しました。

POSAM のアルゴリズムでは、2 段階の方法で対象地域に鉱物が含まれる可能性を導きます。まず、各ピクセルのスペクトルが、スペクトルライブラリの教師データと同じ特徴を持っているか確認します。次に、同じ特徴があった場合、スペクトルの波形が似ているほど、鉱物が存在している可能性が高いと判断します。しかし、ハイパースペクトルデータの特性に合ったアルゴリズムではないため、空間分解能の違いや大気の影響などを考慮したアルゴリズムの改良が必要です。そこで、取得されたスペクトルが教師データと同じ特徴を持っているか確認する方法ついてアルゴリズムの改良を行いました。

改良の結果、探鉱に有用と考えられる10 種の鉱物を抽出することに成功しました。抽出された鉱物の組み合わせから、変質帯の性状が推定できます。さらに、マルチスペクトルデータではわからなかった同じ鉱物内の結晶の大きさや密度などの差によって起こる、わずかなスペクトルの違いも認識できることがわかりました。

現在は、分類に悪い影響を与えていた、枯れた植物のスペクトルを取り除く植生補正についても検討が行われ、成果をあげています。さらに、鉱物が混ざり合い、スペクトルが変化している地域でも、鉱物の抽出ができるようにアルゴリズムのさらなる改良が望まれます。

Fig01-01
吸収位置の得点は、最初に吸収の有無を判定し、吸収がない場合は0とし、教師となるスペクトルデータの吸収位置と近い場合は高得点となります。相関係数の得点は教師スペクトルとの相関が高い場合に高得点となります。
Fig01-02
鉱物抽出結果:赤色ほど点数が高く、対象鉱物が存在する可能性が大きいことを示します。
Fig01-03
鉄を含む鉱物のスペクトル

期待される活用方法

現地調査の負担軽減・簡略化

ハイパースペクトルデータを使って対象地の地質情報を推定することで、地表踏査の箇所を絞ることができ、調査にかかる時間と費用の削減が見込まれます。また、立ち入りが困難な地域の評価を行う際に、有効な補助情報としての利用が考えられます。

高波長分解能・多バンドであるハイパースペクトルデータを利用することで、これまでのマルチスペクトルデータを用いた解析よりも多くの種類の鉱物が抽出されることが期待されます。さらに、鉱物が混ざり合いスペクトルが変化している地域でも、鉱物の抽出ができるようにアルゴリズムの改良を重ねていくことが期待されます。


[1] 地下または地表の岩石が熱水などの影響で、周囲とは異なる性質を示す地域。岩石に含まれる成分や熱水の性質(酸性・アルカリ性)・温度により、さまざまな鉱物が生成される。

[2] POrtable Spectror Adiometer for Mineral identification の略